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[ESSAY:14] ギャップと生き続ける

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映画 Clouds of Sils Maria の舞台となるSils Mariaはスイスの山間の村。

 

 

この世に存在する多種多様なギャップ。それを生み出すのは、世代、ジェンダー、人種といった範囲の広いものから、出身校や応援するサッカーチームといった瑣末な(すみません)ことまで・・・

私たちは生まれ落ちてから生きている限り、他者とのギャップに悩んだり傷ついたり腹を立てたり、翻弄され続けていると言っても過言ではないかもしれません。

 

そんなギャップを浮き彫りにすることもアートの役割の一つではないかと思っています。

自分の現実として直面している時には冷静に対処できないけれど、映画や小説で第三者が演じてくれていたら、少し距離を置いて考えることができるのではないでしょうか?

 

オリヴィエ・アサイヤス監督の ‘Clouds of Sils Maria’は、3人の女性たちを通して、人と人との間に頑然と立ちはだかるギャップを味わい深く描いた映画です。

(ちなみに邦題は「アクトレス〜女たちの舞台」。作品の意図を無視した邦題の付け方は、もはや日本の配給会社のお家芸ですね!)

 

20年前に著名な劇作家に起用されたのをきっかけに役者として成功の道を歩んできたマリア(ジュリエット・ビノシュ)、彼女の有能な秘書で良き友人でもあるヴァル(クリステン・スチュワート)、マリアと共演するお騒がせ女優ジョアン(クロエ・グレース・モレッツ)。

 

ざっくりとですがマリアは45歳、ヴァルは30歳、ジョアンは20歳といったところです。また、同じ女優でもマリアはフランスの舞台芸術出身、ジョアンは米国ハリウッド育ち。世代の違いに加えて、文化的土壌が全く異なる対照的な2人。そのちょうど真ん中に位置する立場にいるのがヴァルです。

 

マリアを演じたジュリエット・ビノシュも魅力的だったのですが、それ以上にヴァル役のクリステン・スチュワートが際立っていました。彼女の役どころは、年上のマリアにも年下のジョアンにも理解を示すバランス感覚があり、物事に対する自分の判断軸を持っている頭の良い女性。でも仕事への責任感とオーバーワーク、承認欲求とカラ回り感みたいなものに取り囲まれてじわじわと苦しむ(あからさまには苦しまない)、そういう「混ぜこぜ」な状態をうまく表現していたと思います。

 

映画 Clouds of Sils Maria のワンシーン。ジュリエット・ビノシュ(左)とクリステン・スチュワート(右)。© 2014 CG CINEMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinema – ZDF / ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

 

3人が3人とも、はじめは相手に敬意を払おうとし、実際に歩み寄りを見せ、親愛の気持ちを抱く場面もあります。それでも、3人の間のギャップはじわじわと広がります。誰かが正しく、誰かが間違っているということはありません。

 

私は今回はヴァルに感情移入しましたが(ヨーロッパ映画も好きだけど、ハリウッドのアクションとかSF映画も観る。ヴァルが劇中に言ったように、優劣ではなく差異だし、どちらにも良い作品があると思っている。)、時間を置いて観るとマリアに共感するかもしません。なにしろ私たちは、生きている限りギャップに悩み続けるから。

この記事を書いた人

中島 紗知 |Gallery Pictor オーナー

画業を営む両親の元に生まれ、幼少期より美術に親しむ。監査法人グループ等にて企業のESGマネジメントコンサルティングに従事した後、2019年 Gallery Pictor 設立。 1999年神戸大学卒業、2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。東京大学主催・文化庁推進事業「社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業(AMSEA)」2017年度修了。

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