[ESSAY:01] 本を読むようにアートを読む
経験なしで始めたギャラリーを手探りで運営して約2年が経ちました。私は美術の専門教育も受けていませんし、前職までアートビジネスに関わっていたわけでもありません。ですから、ここに書くことは(今回に限らずこの先も)、アートの鑑賞の仕方を指南するというような、大上段に構えたものではありません。むしろ、アートの知識を特に持たないところからスタートして、アートをどうやって楽しめばいいのか、アートは何かの役に立つのか、私たちに何をもたらしてくれるのか、そんなことを皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。今日はその一回目です。
皆さんは、美術館に、あるいはギャラリーに行こうと思う時、何を期待してそこに向かうでしょうか? 私のこの2年間の経験では、ギャラリーに来て下さったお客様が帰り際に口にされる感想で最も多いものが「癒されました」と「非日常を味わいました」の2つです。
癒しと非日常。お客様は好意的にそう言って下さっており、私も素直に「ありがとうございます」と答えます。もちろんアートが癒しになることはありますし、非日常を味わうためにアートを観ることがあっても良いと思います。
しかし私としては、癒しもいいけど何か気づきがあってほしい、そして非日常ではなく「現実に起こっていること・あるいは起こりうること」を感じてほしい、と思っています。別の言い方をすれば、「アートは非日常的な夢の世界に逃げ込むためのリトリート」というイメージを「アートは現実の私たちの世界を色んな切り口でみせてくれる媒体」という認識に変えていきたい。そして、そう思ってもらえるようにギャラリーのプログラムを作っていこうというのが、最初の2年を終えた今時点での思いです。
アートを目で観るものだと思わずに、本のように読むものだと考えたらどうでしょうか。
良い本は、その本をきっかけに別の本を––しかも分野の違う3〜4冊の本を––読みたくなります。読んだ本の主題が「点A」だとして、本の中に別の新しい「点B」や「点C」をみつけます。この時、点Bや点Cはその人次第で様々です。AとBをつないだ線ができ、AとCをつないだ線ができます。そして、もしBとCもつながったとしたら、そこに面として立ち上がる世界があります。アート作品の面白さも、これと同じことが言えると思っています。
今は亡きAppleの創業者スティーブ・ジョブズが2005年に行なったスタンフォード大学での有名なスピーチに connecting the dots (点と点をつなぐ)というエピソードが出てきますが、そういう感覚です。
実は、ギャラリー名に冠した Pictor(ピクトル)にも、点と点をつなぐという意味合いを込めています。pictorはラテン語で「画家」あるいは「画架(イーゼル)」という意味があります。そして、日本が位置する北半球では馴染みが薄いですが、pictorは南半球で見られる星座の名でもあります。だから、Gallery Pictorのロゴは、イーゼルの形を象るとともに、点と点をつないだ線が面を形づくるというイメージにしたのです。
次回は、点から線へ、線から面へというお話を一冊の本を元に考えてみます。
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