[ESSAY:08] Fragment に出会う – 河本蓮大朗 展 [時の布] につながる点(1)
3月27日から4月25日までGallery Pictorで、また4月2日から4月4日の3日間は建長寺で、河本蓮大朗展 [時の布] が始まります。
この展覧会の企画は、タイミングが合わなければ見過ごしてしまったかもしれない小さな点 – fragment – から生まれ、そこからつながる点が次々とみつかって線を描き、[時の布] という面に発展しました。今回から6回に分けて、その周辺のお話をしたいと思います。
最初の小さな点は、河本さんがご自身のInstagramにアップしたFragmentという小さな織物作品でした(上の画像)。そこに添えられていた文章をそのまま引用します。
Fragmentは正倉院裂からインスピレーションを受けたシリーズ。
美しく完成された布が何千年もかけて朽ちていく。
そこにある人々の知恵と創造の歴史、内包する時間に魅力を感じた。
布は儚いものだ。
私が手を下すたび、その布はボロボロと壊れていく。
祈るような気持ちで布の欠片を樹脂で固めた。
出来上がった布の欠片の集合体は時間の流れと蓄積を連想させる。
その布や素材が持つ歴史、解体と構築を繰り返す現象が、
私には人間を含めた自然の有様に見えて仕方がない。
正倉院裂とは、飛鳥・奈良時代に朝鮮半島や中国から渡ってきた染織品、あるいはそれに倣って当時製作されたもので、奈良・東大寺の正倉院に伝わっています。
河本さんのFragmentというシリーズは、後に「織物日記」というシリーズに展開し、年初のグループ展「セレクション展」にも出品していただきました(3月14日で終了)。今度の個展でも、Gallery Pictorの会場で「織物日記」の新作を展示します。
Fragmentの儚げな佇まいに加えて、それについて語る文章の、視点の豊かさ、時間の奥行き。目の前に景色が広がるようでした。私は河本さんのホームページからメールを送り、Fragmentシリーズの成り立ちに非常に興味を持ったことを伝えました。
実は、連絡をとるまで私は彼が鎌倉ご出身だということを知りませんでした。そこから、河本さんと対話を重ねながら、鎌倉での展覧会を模索するうち、織物と鎌倉、織物と禅宗、織物と茶の湯・・・色々なつながりが、まさに面として立ち上がるかのように見えて来たのです。そして、そこにある歴史の重要な舞台となったのが、今回展示会場としてご協力いただくこととなった鎌倉を代表する禅宗寺院・巨福山建長寺です。
次回は、中世の鎌倉へタイムトリップして、建長寺を舞台とした禅宗の興隆と、そこから拡がる織物の世界に足を踏み入れます。
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