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[ESSAY:10] 茶の湯と名物裂|河本蓮大朗展 [時の布] につながる点(3)

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6回連続で綴る「河本蓮大朗展 [時の布] につながる点」の3回目です。前回は、建長寺を舞台にした禅宗の広まりと南宋文化の流入について書きました。([ESSAY:09] 鎌倉時代の国際交流センター

この時代に禅宗とともに伝わった織物=僧侶の袈裟や仏典の包み裂、仏殿の打敷などが、同じく禅とともに広まり始め、後に日本独自の文化に発展する茶の湯の世界で、その道具(掛け物の表装裂や茶入の仕覆)に使用され、「名物裂(ぎれ)」として珍重されることになります。

 

 

名物は天下古今の名物

 

江戸時代後期の松江藩七代藩主・松平治郷は、藩主として役割を務めながら茶道にいそしんだ「大名茶人」としても知られ、後に隠居して不昧(ふまい)と名乗り、不昧流茶道の祖となる人です。不昧は「名物は天下古今の名物」、つまり「優れた名品は後世まで誰もが愉しむべきもの、個人や特定の家に死蔵させてはならん」と言い(あっぱれ!)、全国の茶人に呼びかけて名物茶器や茶道具の蒐集を行い、それらを『古今名物類聚(るいじゅう)』(1789〜1797)にまとめました。これが、色刷りの図説なのですが、なかなか味わい深い。国立公文書館に保管されているようです。全18冊のうち2冊が名物裂に充てられています。

 

名物裂には、鎌倉に由来のあるものがいくつか見られます。

例えば、以下の「鎌倉間道(かんとう)」。間道は、縞模様の織り方を指し、由来は中国の広東にあると言われ、茶人に好まれた模様です。この鎌倉間道には、建長寺の打敷(仏壇の高座などに敷かれる織物)だったとか、源頼朝の着衣だったという説があるようです。不昧の『古今名物類聚』にも、「地合 うね立 こまやかに ことの外 見事之」と記されています。

鎌倉間道

この他にも、「鶴岡間道」「鎌倉緞子(どんす)」などが鎌倉にゆかりのある名物裂として現在に伝わっています。鶴岡はもちろん鶴岡八幡宮のこと。

 

また、茶人の名のついた名物裂もあります。「利休緞子」は、千利休愛用の名器とされる黒漆塗りの棗(なつめ)の袋裂に使用されたというものです。茶人たちは茶器や書画と同じように、こうした名物裂にも自らの美意識や理念を投影し、珍重したと言われています。

 

利休緞子

 

 

体を整え、心を整える茶

 

現代の私たちは、利休に代表される「侘び茶」を茶の湯としてイメージすることが多いと思いますが、禅の中で、そもそもお茶とはどういう位置付けだったのでしょうか?

 

日本で最初に禅を伝えたと言われる栄西は、お茶の効能を記した『喫茶養生記』を遺しました。

栄西は二度、宋へ渡っています。一度目は1168年、天台山に登り、羅漢に茶を供養しています。この一度めの在宋中に禅に触れ、さらなる学びを求めた栄西は1187年に再び宋を訪れ、天台山万年寺という禅寺で臨済宗の印可を受けました。

『喫茶養生記』は「茶は養生の仙薬なり。延齢の妙術なり」という一文から始まります。紛れもない健康法ということですね。三代将軍源実朝の体調がすぐれない時に、どうやら前の晩に飲みすぎたということを聞き及んだ栄西が、二日酔いに効能のある茶と『喫茶養生記』を実朝に献上したと『吾妻鏡』に記されているそうです。

 

また、栄西より後、宋に渡った道元は、帰国後に修行僧の日常生活の作法とともに佛への献茶・供茶の茶礼を『永平清規(しんぎ)』に著しました。禅の修行生活は日常生活を重んじます。これは、禅が経典や教義を拠り所にするのではなく、自身の内面・心の中に仏を見出すことを目指すものだからでしょう。禅の修行の中でお茶を飲むことは、体を整え、心を整える方法だったようです。

 

[時の布]展の建長寺会場では、方丈の一間を茶室に見立て、茶道具を模した作品(もちろん織物)も展示します。禅の日常行為としての茶の湯や、数百年後に茶道を究めた茶人に愛された名物裂にも思いを馳せてみてください。

 

建長寺・方丈(龍王殿)内の展示会場(一部)

 


 

▼河本蓮大朗 展 [時の布] 詳細はこちら▼

 

この記事を書いた人

中島 紗知 |Gallery Pictor オーナー

画業を営む両親の元に生まれ、幼少期より美術に親しむ。監査法人グループ等にて企業のESGマネジメントコンサルティングに従事した後、2019年 Gallery Pictor 設立。 1999年神戸大学卒業、2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。東京大学主催・文化庁推進事業「社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業(AMSEA)」2017年度修了。

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