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[ESSAY: 31] 恐れずにあそび、ためらわずにすさぶ

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Gallery Pictor は4月11日で創立4周年を迎えました。

いつも支えて下さっている皆さまに感謝申し上げます。

 

今年の年間プログラムのテーマは《あそぶものたち・すさぶものたち》です。

《あそび》はアートでよく扱われるテーマだと思いますが、今回は play やfun といった「遊戯」の意味だけで捉えるのではなく、あそびの原義に立ち返っています。それは「ゆらゆらと揺れ動くこと」「行きつ戻りつすること」。

《すさび》は漢字の「遊」の別の読み方で、現在よく使われる意味では「荒れ狂う」のようなイメージですが、こちらも原義を辿ってみれば「自ずと湧いてくる勢いのおもむくままに振る舞うこと」です。

つまり《あそび・すさび》は、揺れ動きつつ、自らの内に湧いてくるエネルギーに身を委ねることなのです。

 

ギャラリーを開業する前、コンサルティング会社に勤めていた頃、クライアント先に向かうタクシーの車内で、普段は淡々として無駄口のない同僚が、「紗知さんは、自分のキャリアをどうしたいと思っているんですか」とまじめくさって尋ねてきたことがありました。

彼は多分、質問する相手を間違えたと思います。私にはキャリアを積むということにあまり興味がなくて、どう生きるか、何をするかということしか考えていなかったからです。でも、彼がどうやら自分のやっている仕事は「自分じゃなくてもできる仕事」だということに充足感を感じないようだったので、まぁその気持ちは分からないでもない、でも、と私は自分がそうできないことを苦々しく思いながら、「自分にしかできない仕事をしたいなら、研究者か芸術家になるしかないんじゃないですか」と、冷めた口調で言った記憶があります。

 

いまの私は、自分の仕事が「自分にしかできない仕事」だとは思っていませんが、「自分しかやらない仕事」だろうなとは思っています。やろうと思えば他の人でもできるけど、私がやるから存在した仕事であって、評価の良し悪しは別にして、私に固有であることは確かです。

 

ギャラリーをつくって1年目、2年目は、私は既存のギャラリーの枠組みのうち自分はどんなギャラリーを作ろうかなと考えていたような気がします。3年目から少し揺れ動きはじめ、好きなことを試すようになりました。4年目は既存の枠組みのことはあまり気にしなくなりました。

私自身が《あそび、すさぶ》ことで、自分の仕事を手繰り寄せているような感覚があります。そしてそうした方が、心から「いいね」と言ってくれる人が増えたような気がしています。

 

ということで、5年目はプログラムのテーマを自らの指針としながら、恐れずに《あそび》、ためらわずに《すさぶ》年にしたいと思います。

この記事を書いた人

中島 紗知 |Gallery Pictor オーナー

画業を営む両親の元に生まれ、幼少期より美術に親しむ。監査法人グループ等にて企業のESGマネジメントコンサルティングに従事した後、2019年 Gallery Pictor 設立。 1999年神戸大学卒業、2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。東京大学主催・文化庁推進事業「社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業(AMSEA)」2017年度修了。

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