[ESSAY:21] ライブラリより:ブループリント
ライブラリの書籍をご紹介していくシリーズ、番外編を含めて6回目となります。
最初にご紹介した「WHAT IS LIFE?」の著者ポール・ナースは、私たち人間には、自由意志があり、高度で想像的な思考をする能力があり、それゆえに地球上の生命全体に思いを馳せて行動する責任がある、と言いました。今日ご紹介する「ブループリント」の著者ニコラス・クリスタキスは、人間はその “責任ある行動” をするための−−彼の言い方に換えれば “善き社会を作り上げる” ためのスキルを、永い進化の過程で既に身に付けている、と言います。そしてそのスキルを以下の8つの項目として定義し、これを「社会性一式(ソーシャル・スイート)」と呼んでいます。
(1) 個人のアイデンティティを持つ、またそれを認識する能力
(2) パートナーや子どもへの愛情
(3) 交友
(4) 社会的ネットワーク
(5) 協力
(6) 自分が属する集団への好意(すなわち内集団バイアス)
(7) ゆるやかな階級制(すなわち相対的な平等主義)
(8) 社会的な学習と指導
ニコラス・クリスタキスは、医師であり進化生物学や行動遺伝学の専門家である一方、社会学的なネットワーク科学の研究者でもあります(現職はイェール大学ヒューマン・ネイチャーラボ所長・同大学ネットワーク科学研究所所長)。その見識をフル活用し、生物学的な面からも社会学的な面からも人間を分析した上で、私たちが地球上でいかなる多様な文明・文化を築こうとも、他者を愛し、他者と交友し、協力し合い、学習し合いながら社会を形作る能力は、人類に普遍的な特性である、というのがクリスタキスの見解です。
世界を見渡すと、いつの世にも変わらない、絶えることのない恐怖と、無知と、憎悪と、暴力がそこにある。一方、その同じところから人間集団を眺めると、それぞれの細かな特徴が果てしなく目について、互いの違いを微に入り細に入り強調できる。
だが、このように悪いところばかりを目立たせて、違いだけを強調し、人間をばらばらにとらえるような厭世的な見方をしていては、その根底にある重要な一致に気づかずに、誰もが共有する人間性を見過ごしてしまう。私たちがやってきた進化社会学のプロジェクトで明らかになっているように、全世界の人間はみな、ある一定のタイプの社会をつくるように最初からできている。それは、愛情と友情と協力と学習に満ちた社会である。
タイトルの「ブループリント」は「青写真」—つまり見取り図や計画です。クリスタキスは、善き社会を築くという社会性一式が、永い進化の過程で、遺伝子というインクを使ってこの青写真に描かれてきたと言います。青写真だから絶対のものではない、しかし膨大な時間をかけて描かれたものである、というところに意味を込めただろうと思います。
さて、5月12日からお届けしてきたコレクション展とライブラリ&ワークスペースの会期は6月25日で終了となるので、このエッセイもいったん筆をおきますが、ここで綴ってきたことは、今後もギャラリーの企画を通じて掘り下げていきたいテーマです。なので、この秋には作品もライブラリも再構築して企画展を開催する予定です。お楽しみに!
コレクション展示とライブラリ&ワークスペース
6月25日まで開催中!
◆営業時間
2021年5月12日(水)~6月25日(金)
・月曜休み
・火曜~金曜 9:30~17:00(予約なしで利用可能ですがワークスペースは予約優先)
・土曜~日曜 10:00~17:00(ライブラリ・ワークスペースとも事前予約制)
※ 東京都の緊急事態・神奈川県のまん延防止措置が解除された場合、営業時間や予約の要否を変更することがあります。
◆予約受付
ご予約・お問い合わせはEメール(info@gallery-pictor.com)でお願いいたします。
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