Get insight from Arts|Gallery Pictor

[ESSAY:23] 第1回 “学びをシェアする読書会”

LINEで送る
Pocket

Arts & Library Show [awareness]
Arts & Library Show [awareness] 展示会場

 

過日、Arts & Library Show [awareness] のライブラリに収めた一冊「宇宙樹」(竹村真一著/ 慶應義塾大学出版会)の読書会を展覧会場で開催しました。

そもそもギャラリーにライブラリを置きたいというのは1年くらい前から考えていたことです。このエッセイの第1回目( [ESSAY:01] 本を読むようにアートを読む)にも書きましたが、アートを「目で見るもの」から「本のように読むもの」という感覚を伝えたかったからです。説明的になることはよくないかも知れませんが、作品から広がっていく思考を楽しむには、何か仕掛けが必要だと思ったのです。

 

今回出品していただいた作家は3人が3人とも、語る言葉を持っているというのも、ライブラリを設置するのに適した条件でした。彼らは、[awareness]というコンセプトで選書をし、さらにその11冊にコメントをつけてほしいという面倒なお願いに、すんなりと応えてくれました。会場に作家が在廊していなくても、鑑賞者は作品と書籍を通じて作家とコミュニケーションをすることができます。

読書会は、さらにもう一歩踏み込んで、作品に到達するまでの作家の思考を知るとともに、鑑賞者同士で対話をすることによって、いくつもの他者の視点(作家、本の著者、読書会の参加者)を通し、自分自身の思いにも気づくための仕掛けです。

 

今回選んだ書籍「宇宙樹」は、畑山太志が選んでくれたもので、自然界との交感をテーマに制作している彼にとっても気づきの多い書籍だったと言います。著者の竹村真一氏は文化人類学者で、日本で「エコロジー」という概念が、”ライフスタイルとして” 流行し始めた頃に(本書は2004年出版)、もっと本質的に人間が植物生態系と共に生き、共に進化していくための文化的なOSを探る試みとしてこの本を世に出していました。17年の歳月が流れ、当時とは政治的にも経済的にも持続可能性に対する姿勢が大きく変わった今、ここに書かれていることはますます重要性を増していると感じます。

 

「宇宙樹」竹村真一 著 / 慶應義塾大学出版会

 

読書会では、5人の参加者が分担してそれぞれの担当パートを読み、その内容を要約しながら他の参加者にシェアしました。内容を要約する際、話者の視点が自ずと入ります。その人が面白いと思った部分に力点が置かれますし、その人の経験も交えて話してもらうからです。そうすると著者の書いたことをそのまま受け止めることにはなりませんが、それこそがこの読書会の狙いです。一人で読み通そうと思えば、それは誰でもできることです(その気になれば)。ただし他者の視点と言葉がそこに入り、対話することによって、自分の視点と言葉も浮かび上がります。

読書会に参加したメンバーからは、その体験がとても刺激になったという感想が聞かれました。また、読書会の後、作品を観ると、また感じ方が変わっているという人もいました。

 

本を読むようにアートを読む体験。小さなスタートでしたが、何か面白いことができそうだと感じています。

この記事を書いた人

中島 紗知 |Gallery Pictor オーナー

画業を営む両親の元に生まれ、幼少期より美術に親しむ。監査法人グループ等にて企業のESGマネジメントコンサルティングに従事した後、2019年 Gallery Pictor 設立。 1999年神戸大学卒業、2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。東京大学主催・文化庁推進事業「社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業(AMSEA)」2017年度修了。

この著者の記事一覧

コメントは受け付けていません。

LINEで送る
Pocket

SHARE
PAGE TOP