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[ESSAY:24] 未来の都市

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巨木と雄鹿。(奈良公園、2019年8月)

 

クリスマスを目前にした12月のある日、渋谷へ出掛けた。

東京に住んでいた頃から渋谷には用がある時にしか行かない。6年前に逗子に住まいを移して、3年前に東京の仕事も辞めてからはますます足が遠のいているので、私の頭の中から渋谷の地図は消えかけていた。Google Mapがなければ目的地に辿り着けない。

 

公園通りの坂を上がって、パルコの斜め向かいにあるギャラリーに寄った後、オルガン坂のビルの2階にあるカフェで窓際の席に座り、通りを眺めてみた。パルコの前は人の波とキラキラの広告。裏通りに視線を移すと、小さな古い建物を取り壊した跡が見えた。

 

再開発で街のパーツは変わっていくけれど、基本的に都市の様相というのはほとんど変わってないんだという気がする。スクラップ&ビルド、溢れるモノ・ヒト・モノ・ヒト・・・。このままだと50年後には渋谷はブレードランナーの世界になってしまうのかもしれない。

 

・・・

 

未来の都市はきっとこんな風だ、と思わせる風景を、意外にも私は自分の故郷の奈良に見た。

2年前の夏、用事があって奈良へ帰ったものの、今は誰も住まなくなった実家に私は泊まりたくなかった。真夏で、エアコンもないし、空気も入れ替えてないし、布団だって干してない。それで、思い立って奈良公園のすぐ近くのホテルに泊まることにした。

 

夕方、興福寺を拝観して阿修羅像と対面し、続いて東大寺の二月堂の社殿から夕陽を眺めた。それから土塀と石畳の坂道を下り、高校の同級生が経営する奈良町のイタリアンで夕食をとった。夜の猿沢池に戻ってくると、池の周りの柳の木と五重塔がライトアップされていた。

 

 

翌朝早く起きて、奈良県庁と隣合った建物の2階にあるスターバックスで朝食を食べた。ここからは奈良公園と若草山が見える。公園沿いの松の木より高い建物はない。朝食を終えて、公園の中をゆっくりと歩いて春日大社へ向かった。観光客はまだほとんどおらず、鹿の群れが木立の間をサァーと走り抜ける。その足音が聴こえる。巨木の根元で雄鹿がゆったりと草を食んでいた。神社に近い参道で、木の陰から子鹿が降りてきて、臆することなくこちらを見た。ここでは鹿は神の使いなのだ。

 

 

これが未来の都市の姿かもしれない、とこの時思った。

鎮守の森と都市空間が隣り合い、人と動物(と神様)が道を分け合う。1400年前の人々も眺めた山並みを私たちも眺めている。奈良は古い街だと思っていたけど、わざわざ新しくする必要のなかった街なのだ。だって古くならないから。

 

「古くならないことが新しいことだと思うのよ」

これは、小津安二郎が映画「宗方姉妹」(1950) の中で主人公に言わせた名言だ。

この記事を書いた人

中島 紗知 |Gallery Pictor オーナー

画業を営む両親の元に生まれ、幼少期より美術に親しむ。監査法人グループ等にて企業のESGマネジメントコンサルティングに従事した後、2019年 Gallery Pictor 設立。 1999年神戸大学卒業、2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。東京大学主催・文化庁推進事業「社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業(AMSEA)」2017年度修了。

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